成人先天性心疾患 ACHD部門

 私の母親は、私が中学一年のときに亡くなりました。子供のころから心臓が悪かったそうです。坂道では息が苦しくなり、私が背中を押して坂を上ったのを思い出します。私は「問題児」でしたので、母親はしばしば鞭をふるいました(愛の鞭ではなく、本当の鞭です)。息づかいも荒く、今にも息が止まりそうになりながら鞭をふるうのです。自分の痛みより母親の苦しそうな様子が、かえってつらかったのを思い出します。当時は心臓の手術なんて本当に命がけで、母親には無理だと言われていました。でも、今なら何とかなったのかもしれません。そんな私が医学生時代に憧れたのは心臓外科です。心臓を止めてダイナミックに心臓を修し、また心臓を動かす。止まった心臓がまたよみがえって動き出すなんて、、、何と神秘的でしょう!

 心房中隔欠損(ASD)のカテーテル治療を始めた当初は全身麻酔で行っていました。麻酔科医と二人三脚です。全身麻酔で完全に意識をなくして、治療が終わると目が覚めるのを待ちます。カテーテル治療は心臓を止めずに(人工心肺を使わずに)行います。外科手術のように心臓を止めているわけではありません。それでも、無事に目が覚めてくれるよう祈るような気持ちになります。私たちが行っている先天性心疾患(心房中隔欠損、動脈管開存など)のカテーテル治療は心臓を動かしたまま行えます。人工心肺は使いません。最近では全身麻酔ではなく、局所麻酔で治療を行っています。「心臓を止めない」、「全身麻酔を使わない」ことで患者さんにも私たちにも大きな安心感があります。

 私はもともと冠動脈疾患の治療 に携わってた。先天性心疾患の治療を らなかった若い方や、小さなお子さんの治療を行う機会が増えました。小さなお子さんは、いつもわが子と重なってしまいます。患者さんの未来、70年、80年先を考えた治療を心がけています。

 慶應病院では内科と外科が緊密に協力して治療を行っています。無理な治療は決してしません。 でもお引き受けするからには安全第一でベストな治療を行います。今後、先天性心疾患では心室中隔欠損(VSD)のカテーテル治療も可能になります。患者さんの幸福のため、夢の実現のためお役に立って参りたいと思います。